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データ活用の実践2026年11月5日

社内データをAIに読ませると、間違った数字がそのまま答えになる

「社内のデータをAIに読ませて、聞けばすぐ答えが返るようにしたい」という相談が増えています。AIが社内のシステムを順に読んで、集計して、答えの文章まで出す使い方です。聞いた内容からデータベースへの問い合わせをAIに組み立てさせる仕組みや、複数のシステムを順に使って処理を進めるAIエージェントと呼ばれる仕組みが、これを支えています。

このとき見落とされやすいのは、データが変わらないことです。読ませる前とあとで、社内に入っている値は同じです。変わるのは、そのデータを誰が見るかです。

これまでは、集計結果を担当者が見ていました。「この取引先の売上が先月の3倍になっている。入力ミスだろう」と気づいて、元データに戻って直す。この工程が、レポートとその先の判断のあいだに入っていました。AIに聞くようにすると、この工程は自動では残りません。残すかどうかが、設計で決めることになります。

決めておかないと、担当者が見る工程が残らない
これまで社内データ集計・レポート担当者が見る判断・次の行動おかしければ元データを直すAIに聞くようにしたあと社内データAIが答える—判断・次の行動決めないと、ここが消える※ 社内に入っているデータは、読ませる前と後で同じ
変わるのはデータではなく、おかしいと気づく工程が自動では残らないこと

本記事では、社内データをAIから読めるようにする前に決めておくことを4つ扱います。AIにデータを渡してよいかという情報漏洩の観点はAIにデータを貼り付けて分析してよいのか、社内文書を検索させる場合の整備は生成AI・RAG向けデータ整備で扱っており、本記事では触れません。

AIは「この数字はおかしい」と言わない

AIは与えられたデータから答えを作ります。元の値が間違っていても、計算そのものは正しく実行されます。売上が3倍になっている行があれば、その3倍を含んだ合計が返ります。

担当者がおかしいと気づけたのは、業務を知っているからです。「この取引先は毎月このくらい」「この品目は季節で動く」という感覚と照らして、外れているものに目が留まる。AIが持っているのは、渡されたデータだけです。

さらに、答えには説明が付いてきます。文章として整った形で返るため、間違った数字でも、間違っているようには見えません。グラフを見て違和感を覚えるより、文章で「先月より増えています」と言われるほうが、受け取る側は疑いにくくなります。

つまり、AIに読ませて失われるのは計算の速さではなく、気づく機会です。だから整えるべき箇所も、計算の手前ではなく、データの意味のほうにあります。以下の4つは、いずれも「人が頭の中で補っていた前提」を、データ側に書き出す作業です。

あわせて知っておきたいのは、答えが合わない原因がデータだけではないことです。AIは集計のしかたも自分で決めます。どのテーブルを使うか、どう結合するか、どの期間を対象にするか、金額は税込か税抜か。ここを取り違えても、答えは同じように整った文章で返ります。本記事が扱うのはデータの側ですが、数字が合わないときは、AIがどの条件で集計したかも確認する対象になります。

決めること① どのデータを読ませて、どれを読ませないか

最初に決めるのは範囲です。社内のデータベースをまとめて読めるようにするのではなく、どのテーブルのどの列まで見せるかを決めます。

読ませないものには2種類あります。ひとつは、見せてはいけないもの。給与、人事評価、健康に関する情報、与信の判断材料など、閲覧できる人が限られているデータです。元のシステムで画面ごとに権限を分けていても、AI経由で読める経路を作ると、その区分が効かなくなることがあります。誰が何を見られるかを誰が決めるかはデータオーナー制度の作り方で扱っています。

あわせて、AIがデータベースに接続するときのアカウントを確認します。管理者権限の共通アカウントで接続していると、本来その人には見えないはずのデータまで答えに出ます。利用者ごとの権限がAI経由でも効いているか、効かないのであれば、読ませる範囲をアカウントの側で絞れているかを見ておきます。

もうひとつは、見せても害はないが答えを狂わせるものです。検証用に作ったテーブル、移行のときにコピーした古いデータ、使われなくなって放置された項目。人は「これは今は使っていないやつだ」と業務の経験から分かって無視します。AIもテーブル名や更新日時から推測はしますが、そのデータが業務でどう使われているかが書かれていなければ、古いほうを読んでしまうことがあります。名前の似たテーブルが2つあれば、どちらを読んだかで答えが変わります。

範囲を決めたら、残したテーブルの一覧と、それぞれが何のデータかを書いておきます。説明がない列は、使い道が推測で決まります。どこに何があるかを書き出す進め方はツールを買わずに作るデータカタログで扱っています。

決めること② 同じ項目が複数の場所にあるとき、どこを見るか

取引先の住所が、販売管理システムと請求システムの両方に入っている。社員の所属が、人事システムとグループウェアの両方にある。こうした状態は珍しくありません。

人が調べるときは、用途で選びます。請求書を出すなら請求システム、営業の訪問先なら販売管理システム。どちらが新しいかを見て、おかしければ担当者に聞く。この選択を、気づかないうちに毎回しています。

AIに聞くときは、この選択を先に済ませておく必要があります。どちらも読める状態にしたままだと、質問の仕方によって答えが変わります。同じ「取引先の数」を聞き方を変えて2回聞き、2つの数字が返ってくることが起きます。

決め方は、項目ごとに「ここを見る」を1つ決めることです。このとき、先に項目の定義を分けます。「住所」はひとつではありません。請求書を送る住所と、営業が訪ねる住所は別の項目で、正しい管理元も別になります。分けたうえで、それぞれどのシステムを正式な記録として扱うかを決めます。判断の材料は更新頻度だけではありません。誰がどの業務のために管理しているか、どちらが社内で正式な記録として通っているかを見ます。更新が多いほうが実態に近いとは限らず、連携でコピーされただけの値が頻繁に書き換わっていることもあります。

なお、顧客マスタに同じ会社が複数レコードで残っている場合は、どこを見るかの前に、どれが同じ会社かを決める必要があります。これはBIの顧客別売上が合わない理由で扱っています。

決めること③ 空欄が何を意味するか

空欄は、データの中でもっとも誤解されやすい値です。ひとつの列に空欄が並んでいても、意味は同じではありません。

  • まだ入力していない——入力の工程が終わっていないだけで、値そのものは存在する
  • そもそも該当しない——法人取引の行に個人向けの項目があるなど、埋まらないのが正しい
  • 実績がゼロ——0と書く代わりに空けてある
同じ空欄が、3つの別のことを指している
空欄見た目は同じまだ入力していない入力の工程が終わっていないだけ。値は存在するそもそも該当しない埋まらないのが正しい状態。分母から外す実績がゼロ0と書くべきだった。空欄だと未入力と区別できない※ 3つを区別しないまま平均や件数を出すと、答えが変わる
埋めるのではなく、書き分けを決める

この3つを区別しないまま平均を出すと、数字が動きます。該当しない行を分母に入れるか外すかで結果が変わり、未入力をゼロとして扱うと、本当は値が分からない行まで0として計算されるため、平均も変わります。人が集計するときは「この列は法人だけだから」という前提を頭の中で足していますが、AIは足しません。

対処は、空欄をなくすことではありません。実績がゼロなら0を入れる、未入力は空欄のまま残す、該当しない行は対象外だと分かる状態にする。この書き分けを決めるほうが先です。ただし「対象外」は、金額や数量のような数値の列に文字で書くことはできません。この場合は、対象かどうかを別の区分項目で持ち、値の列は空欄のまま残します。全部を埋めようとすると、該当しない欄に0が入って、別の間違いが生まれます。空欄と欠損の扱いはデータの完全性でも扱っています。

すでに空欄が混ざっているデータについては、列ごとに「この列の空欄は何を意味するか」を書き出すだけでも効果があります。遡って直せない場合でも、集計の側で分母の扱いを合わせられるようになります。

決めること④ 答えをそのまま使ってよい質問はどれか

4つめは、出てきた答えの扱いです。すべてを人が検算するなら、AIに聞く意味がありません。一方で、全部をそのまま使うのも危険です。質問ごとに分けるしかありません。

分ける基準は2つあります。間違っていたときに気づけるか。そして、間違っていたときの影響が大きいか。

答えをそのまま使ってよいかは、質問ごとに違う
社外に出す実績の集計桁と期間を確認してから使う発注量・与信の判断材料元データに戻って確かめる社内で見る件数・合計そのまま使ってよい解約しそうな顧客の一覧結論ではなく確認リストに使う影響大影響小気づける気づけない横軸:右にいくほど間違いに気づけない / 縦軸:上にいくほど影響が大きい
気づけないのに影響が大きいものだけは、答えを根拠に動かさない

「先月の売上合計」は、普段の規模を知っていれば桁が違えば気づきます。「解約しそうな顧客の一覧」は、出てきた一覧を見ただけでは合っているかどうか判断できません。後者は、答えを結論として使わず、確認する相手のリストとして使います。

影響が大きいのは、社外に出る数字と、お金が動く判断です。取引先に提示する実績、在庫の発注量、与信の判断材料。ここは答えを根拠に動かず、元のデータに戻って確かめる工程を残します。

AIに聞く内容答えの扱い先に決めておくこと
先月の売上合計そのまま使ってよいどのテーブルを見るか
顧客別の売上ランキング桁と順位を確認してから使う同じ会社が複数レコードで残っていないか
在庫が足りない品目元データに戻って確かめる数量の空欄がゼロか未入力か
解約しそうな顧客の一覧確認リストとして使う元データの期間と、欠損がどこにあるか

質問の種類ごとに扱いを決めておく(内容は一例)

この線は、一度決めたら動かさないものではありません。使ってみると、思っていたより合っている質問と、毎回直している質問に分かれてきます。月に一度見直す場があると続きます。進め方はBIのレポートを直していく月30分の決め方が近い内容です。

まず1つの質問で試す

4つを全部決めてから始めることはできません。どの質問が使えるかは、やってみないと分かりません。

始め方は、業務で実際に使っている質問を1つ選ぶことです。毎月作っているレポートのうち、作るのに時間がかかっているものがよい候補になります。すでに人が作っている数字があるため、合っているかどうかを突き合わせて判定できます。

その1つについて、上の4つを決めます。読ませるテーブルを限る。項目ごとに見る場所を決める。空欄の意味を書き出す。答えの扱いを決める。そのうえで、これまで人が作っていた数字と並べます。

合わなければ、まず②と③を確認します。想定と違うテーブルを読んでいるか、空欄の解釈が違っているかです。それでも合わないときは、AIがどう集計したかを見ます。対象の期間、集計の単位、テーブルの結合のしかた、金額が税込か税抜か。ここで原因を1つずつ特定しておくと、2つめ以降の質問では同じ作業が要らなくなります。

合うようになったら、その質問だけを運用に乗せます。ほかの質問は、同じ手順で1つずつ増やします。最初から全社のデータを対象にすると、合わなかったときに原因を絞れません。何から確認するかの考え方はAI・BIツール導入前のデータ整備でも扱っています。

よくある質問

Q

AIに読ませる前に、データをきれいにしておく必要がありますか?

A

全部をきれいにする必要はありません。最初に選んだ1つの質問が使うテーブルと列に限って、空欄の意味と見る場所を決めるほうが先に進みます。全社のデータを対象にすると、どこまでやれば終わりなのかが決まらず、着手そのものが遅れます。

Q

AIが間違った数字を出したかどうかは、どうすれば分かりますか?

A

人が作っていた既存の数字と突き合わせるのが確実です。そのため、最初に試す質問は、すでに毎月作っているレポートから選びます。比較対象がない質問から始めると、合っているかどうかを判定する手段がありません。

Q

データが複数のシステムに分かれていると、AIは使えませんか?

A

分かれていても使えます。問題になるのは、同じ項目が複数の場所にあって、どちらを見るかが決まっていない場合です。項目ごとに正とする場所を1つ決め、あわせて更新のタイミングと集計の条件を揃えれば、システムが分かれたままでも答えのぶれは小さくなります。1か所に集める作業は、必ずしも先に必要ではありません。

Q

空欄はすべて0で埋めておけばよいですか?

A

勧められません。該当しない欄に0が入ると、平均や件数の計算に混ざります。埋めるのではなく、実績がゼロなら0を入れる、未入力は空欄のまま残す、該当しない行は別の区分項目で分かるようにする、という書き分けを決めるほうが安全です。金額や数量の列に「対象外」と文字で書くことはできないため、対象かどうかは値とは別の列で持ちます。

まとめ

社内データをAIから読めるようにしても、データそのものは変わりません。変わるのは、これまで担当者が集計結果を見て「おかしい」と気づいていた工程が、自動では残らなくなることです。だから整えるのは計算の手前ではなく、データの意味のほうになります。

決めておくことは4つです。どのテーブルのどの列を読ませるか。同じ項目が複数の場所にあるとき、どこを見るか。空欄が何を意味するか。そして、答えをそのまま使ってよい質問はどれか。全部を先に整えるのではなく、いま人が作っているレポート1つから始めて、既存の数字と合うまで原因を潰していくほうが早く進みます。

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