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データ品質の定着・運用2026年10月30日

BIの数字が直らないのは、担当がいないからではない——先に決めておく、毎月見る項目・直してよい範囲・迷ったときの相談先

取引先マスタに、同じ会社が2通りの名前で登録されている。BIで取引先別の売上を出すと、その1社だけが2行に割れて出てくる。気づいた人は「これ、直したほうがいい」と言います。ところが、それから何か月たっても2行のままです。

情シスに聞くと「入力したのは現場なので、現場で判断してください」と返ってきます。現場に聞くと「勝手に消して請求に影響が出たら困る」と止まります。どちらも間違ったことは言っていません。足りないのは判断材料ではなく、この項目を直してよいかどうかを決める基準が、どこにも書かれていないという一点です。

ここで「データの担当者を決めよう」という話になりがちですが、順番が逆です。決まっていないのは人ではなく、そのデータについての決め事のほうです。①毎月どの項目を見るか、②どこまで承認なしで直してよいか、③判断できないときどこへ持っていくか——この3つは、担当者がいてもいなくても決めておく必要があります。逆にこの3つが決まっていれば、実行する人は兼任からでも始められます。ただし、決め事を書けば済むわけでもありません。実行する人の権限と作業時間を確保し、入力側に手を入れる必要があるならその体制も合わせて整えることになります。

本記事はこの3つの決め方を扱います。決めたあとに「誰が実行するか」をどう置くかは後半で触れますが、体制そのものの設計は別記事です。専任の担当者を採用すべきか外に任せるかはデータ品質の専任担当者を置くべきか、部門長に責任を持たせる仕組みはデータオーナー制度の作り方、入力する人全員への教育は研修をやっても入力ミスが減らないで扱っています。

直してよいかどうかの基準が見つからず、確認先を探し回っている様子

担当を決めても変わらないのは、なぜか

担当の任命は、たいてい会議の最後に1行で決まります。「じゃあ取引先マスタは営業企画の〇〇さんで」。このとき決まったのは名前だけです。その人が月に何を見るのか、どこまで自分の判断で直してよいのか、迷ったら誰に持っていくのかは、何も決まっていません。

任命された側から見ると、状況は任命前とほとんど変わっていません。目の前に明らかにおかしいレコードがあっても、消してよいかは相変わらず分からない。分からないので確認に回します。確認に回すと、冒頭とまったく同じ往復が始まります。

「誰が直すのか」が決まっていないとき、質問はこう往復する
現場 1日目同じ取引先が2件ある。消していい?情シス 3日目入力は現場なので、現場で判断を現場 12日目消して請求に影響しないか不安情シス 26日目影響範囲はシステムからは分からない4週間後——まだ直っていない
一度この往復を経験すると、次に気づいても報告自体が上がらなくなる

この往復が長引くのは、相手が答えを持っていないからではありません。どちらが答えてもよいかを決めた基準が、そもそも存在しないためです。だから人を増やしても、任命しても、同じところで止まります。以下の3つは、その基準を先に文章にしておくためのものです。

決めること① 毎月どの項目を、どう数えるか

最初に決めるのは、そのデータについて毎月見る項目と、その数え方です。ここを口頭で済ませると、見る人によって範囲が違う状態になり、あとで数字を並べられなくなります。紙1枚で構わないので、書いて残します。

  • 対象の範囲:「取引先マスタ」「商品マスタ」のようにテーブル単位で区切ります。複数のテーブルをまたいで1つの決め事にすると、どちらも中途半端になりがちです
  • 見る項目:「必須項目の空欄が何件あるか」「同じ会社が2件以上登録されていないか」など、3〜5項目に絞ります。項目が多いと見ること自体が負担になり、最初に飛ばされるのがここです
  • 数え方:項目ごとに、どのテーブルのどの条件で数えるかを書いておきます。見る人が交代したあとも同じ条件で集計できるかどうかは、ここで決まります
  • 見る日:「毎月第1営業日」のように日を固定します。「気づいたときに」にすると、忙しい月から順に飛びます

この時点で、品質の目標値まで決める必要はありません。目標の立て方はデータ品質KPIの設定で扱っています。まずは毎月同じ条件で数えた数字が並ぶことに意味があります。数字が並んで初めて、増えているのか減っているのかが分かります。

決めること② 承認なしで直してよい範囲

次に決めるのは、承認を取らずに直してよい範囲です。3つのうち、ここが一番よく抜けます。そして重要なのは、この線を「人」ではなく「変更の種類」で引くことです。「〇〇さんなら直してよい」とすると、その人が異動した時点で基準が消えます。「ルールに沿った表記の統一は承認不要」と書いておけば、誰が手をつけても同じ判断になります。ただし、変更の種類だけで切ると粗くなります。対象の項目(請求書や契約書に出る正式名称かどうか)、他システムへ連携しているかどうか、正しい値を一次情報で確認できるかどうか——この3点を条件に加えてください。同じ「表記ゆれ」でも、社内の備考欄と、請求書に印字される会社名では扱いが変わります。

承認が要るかどうかは、1本の線で分かれる
直し始める前に、ここに線を引く承認なしで直せる例事前に承認・確認が要る例・ルールに沿った表記の統一・一次情報で確認した誤記・ルールに基づく空欄の補完・重複レコードの統合・削除・コード体系や正式名称の変更・他システムへ連携済みの項目・請求や契約に影響する変更※ 右側は業務影響が大きく、事前の確認が必要になりやすい作業

線の位置は組織によって違ってよいものです。他システムに連携している項目が多い会社では線は左に寄りますし、社内だけで使うマスタなら右に寄ります。問題は位置ではなく、線が引かれていないことです。引かれていないと、現場は安全側に倒して全部を確認に回します。それが冒頭の往復の正体です。なお、冒頭に挙げた取引先の重複は、BIで2行に見えるというだけでは統合してよい根拠になりません。同一法人かどうかを確かめ、過去の取引履歴・請求先・他システムへの連携を調べてから決める必要があります。線の右側に置かれる典型的な例です。

あわせて決めておくと効くのが、直した記録の残し方です。「いつ・どのレコードを・何から何に・なぜ直したか」の4つが残っていれば、あとで請求や在庫に影響が出たときに戻せます。戻せると分かっていると、線の内側で迷わなくなります。記録の形式はExcelでも構いません。監査や内部統制の要件がある場合は、そちらで求められる項目に合わせます。なお、マスタの変更を「軽微・通常・重大」の3段階に分けて承認ルートを設計する方法はマスタデータの変更管理で扱っています。線の引き方に迷う場合は、そちらの区分がそのまま目安になります。

決めること③ 判断できないときの行き先と、返事の期限

3つめは、線の外側に出たときの行き先です。名前を書くだけでは足りません。いつまでに返事が来るかをセットで決めます。

  • 行き先:部門長など、その範囲について業務上の可否を決められる人を1人決めます。「情シスに相談」のような部署名止まりにすると、冒頭と同じ往復が始まります
  • 返事の期限:「3営業日以内に可否を返す」のように決めます。期限がないと相談は出したまま放置され、次からは誰も相談しなくなります
  • 期限を過ぎたときの扱い:超過したらどうするかまで決めておきます。「現場の判断で進めてよい」とする組織もあれば、「月次の場に持ち込む」とする組織もあります。どちらでも構いませんが、決めていないと放置と同じ結果になります

もう1つ確認しておくことがあります。行き先に指名した人が、本当にその場で決められるかどうかです。その人もまた誰かに確認しないと決められないなら、往復が1段増えただけになります。決められないのであれば、決められる人まで引き上げて指名します。持ち込んだ案件を月次でまとめて決める場を作る進め方は「この数字おかしい」で毎月終わるで扱っています。

ここまで決めてから、誰が実行するかを決める

3つが文章になっていれば、実行する人は専任である必要はありません。毎月その項目を数え、線の内側を直し、外側を行き先に持っていく——これだけなら、その業務を一番よく知っている人の担当業務に足せば足ります。海外ではこの役割をデータスチュワード(Data Steward)と呼びます。本来はもう少し広い役割で、データオーナーが定めた方針に沿って、品質の確認・問題の把握・修正の調整・ルールの運用までを担います。どこまでを任せるかは組織によって違い、本記事が扱っているのはそのうち日常の確認と修正の部分です。いずれにせよ新しい職種を作る話ではなく、既存の業務に範囲と権限を足すところから始められます。

関係する役割は3つあり、どれが欠けるかで止まる場所が変わります。

役割決めること・やること欠けたときに起きること
データオーナー(部門長クラス)その範囲のデータについて、業務上の可否を決める③の行き先が空になり、線の外側がいつまでも残る
実行者/データスチュワード(現場の中堅)毎月の項目を数え、線の内側を直す決め事はあるが、誰も数えない状態になる
データエンジニア(情シス・委託先など)直す仕組みを作る。入力制御や連携の変更直しても入力で戻り、同じ修正を繰り返す

3つのうちどれが欠けているかで、止まる場所が変わる

実行する人を置くときは、次の3つを同時に決めておきます。3つの決め事が書かれていても、時間が確保されていなければ数か月で止まるからです。手を抜いたからではなく、本業の締切と並ぶと後回しになりやすいためです。

  • 時間を業務計画に書く:対象が1領域なら「月2時間」程度から、のように明示します。明示されていない作業は、繁忙期にまず削られます
  • 評価に1行入れる:期首の目標に入れます。「やっても評価されない」状態が続くと、担当が交代したときに引き継がれません
  • 1人にしない:同じ役割の人が社内に複数いるなら、月1回でも集まる場を作ります。他部門が同じ問題をどう処理したかは、ルールを書いた資料より早く伝わります

人が替わっても運用が止まらないようにする考え方は担当者が異動するとデータ整備の運用が止まるで扱っています。3つの決め事を文章にしておくこと自体が、この対策の中心でもあります。口頭で引き継げるのは手順までで、判断の基準は書いていないと残りません。

まず1領域で試す

全マスタについて一斉に決めようとすると、たいてい途中で止まります。最初は1領域だけにします。選ぶ基準は「おかしいと言われた回数が多い」ことです。取引先マスタか商品マスタのどちらかになることが多いはずです。3つを決める打ち合わせ自体は、小規模な1領域であれば、業務を知っている人と可否を決められる人がそろえば、まず2時間程度から始められます。

3か月後に確かめるのは、品質の数字だけではありません。決めたルールに沿って直された件数、相談に回った件数、未処理のまま残っている件数、そして品質の数字の推移を並べて見ます。承認を取らずに直された件数が0でも、それだけで決め事が機能していないとは言えません。そもそも対象の不具合がなかったのか、見る項目が実態に合っていないのか、決めたことが周知されていないのか——どれなのかを先に確かめます。逆に、直した件数が増えているのに品質の数字が改善しない場合は、入力の時点で同じ不具合が発生し続けている可能性があります。そのときは実行する人を増やしても追いつかないため、入力制御や連携処理など発生源の側を見ます。

よくある質問

Q

この3つは誰が決めるのですか

A

その範囲について業務上の可否を決められる人(多くは部門長)と、日々そのデータを見ている実務者が、一緒に決めます。情シスだけでは線が引けません。どの変更が業務に影響するかは、システムの構造からは判断できないためです。逆に現場だけでも決まりません。他システムへの連携状況を、現場だけでは把握できないことがあるためです。1領域なら2時間程度の打ち合わせでまとまります。

Q

ITに詳しくない業務部門の人でも実行できますか

A

できます。必要なのはExcelの基本操作(ピボットテーブルやVLOOKUP程度)と、用意された画面やレポートからデータを取り出せることです。SQLが書けなくても構いません。抽出に専用のクエリが要る場合は、情シス側で用意して手順ごと渡せば足ります。それよりも、その業務のデータを日常的に見ていることのほうが重要です。業務を知らない人が実行すると、線の内側であっても「この値が正しいかどうか」が判断できず、結局すべてを確認に回すことになります。

Q

3つを決めて半年たちますが、品質の数字が改善しません

A

まず、承認を取らずに直された件数と、相談に回った件数を並べて見てください。どちらも0であれば、決めたことが周知されていないか、見る項目が実態と合っていない可能性があります。直した件数は出ているのに数字が改善しない場合は、直す速さより入力で増える速さが上回っていることが考えられます。その場合は入力側の制御が必要で、実行者を増やしても追いつきません。原因を1つに決めつけず、件数の内訳から順に確かめてください。

まとめ

BIの数字が合っていないと分かっているのに直らないのは、担当者を決めていないからではありません。そのデータを直してよいかどうかを判断する基準が、どこにも書かれていないからです。担当を任命しても、基準がなければ同じ場所で止まります。

先に決めるのは3つです。①毎月どの項目をどう数えるか、②承認なしで直してよい範囲(人ではなく変更の種類で引く)、③判断できないときの行き先と返事の期限。これが文章になっていれば、実行する人は兼任で足ります。まず1領域で決めて3か月回し、直した件数・相談に回った件数・未処理の件数を並べて見てください。データの範囲設計や線の引き方についてはBFT Insightにご相談ください。

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