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業種別データ品質2026年11月2日

製造現場の数字がBIで合わないのは、記録が3通りあるから

製造ラインの工程実績をBIに取り込んで、日別の生産数を出してみる。出てきた数字を現場に見せると「その日はもっと作っている」と言われる。不良率も、現場が把握している値とずれている。

まず疑われるのは入力ミスです。ところが1件ずつ当たっていくと、入力そのものは合っていることが少なくありません。合わないのは、工程実績が1つの経路から入ってきていないからです。設備から自動で取る記録、作業日報、Excelへの手入力——この3つが同じテーブルに混ざり、それぞれ別の「いつ」と「いくつ」を持ったまま集計されています。

本記事では、その3つを突き合わせて、BIに載せる前に揃えておくものを整理します。扱うのは工程実績(どの工程で、いつ、何個作って、何個が不良だったかの記録)だけです。品番やBOM(部品表)の統一は工場ごとに品番が違う場合の進め方、在庫数の精度は物流・SCMのデータ品質で扱っており、本記事では触れません。

工程実績の記録時刻を突き合わせて整理するイメージ
揃えるのはデータそのものではなく、時刻と数量の読み方

入力は合っているのに、集計が合わない

工程実績が3つの経路から入ってくること自体は、問題ではありません。設備から自動で取れるものは自動で取ったほうが正確で、手が離せない工程は日報で記録するしかありません。問題は、3つが同じ列に入った時点で、どの行がどの経路から来たのかが分からなくなることです。

工程実績は、3つの別の経路から入ってくる
設備から自動で取る記録1秒単位・機械の時計作業日報1日1行・終業時に記入Excelへの手入力担当者ごとに書き方が違うBIの集計テーブル生産数・不良率・リードタイム時刻の意味も数え方も違うまま、1つの列に積み上がる
どの経路から入った行なのかを、取り込んだ時点で残しておく

最初にやることは、データの修正ではなく経路の棚卸しです。ラインごとに、どの工程の実績がどの経路で入っているかを一覧にします。この時点で「自動で取れているはずの工程が、実際には日報から手入力されていた」ことが見つかることがあります。経路や記録の意味を整理しないままBIの設定に入ると、集計のずれが後から出てきます。製造現場で起きやすい問題は製造業固有のデータ品質問題にまとめています。

揃えること① 時刻——同じロットが3つの時刻を持つ

3つの経路は、それぞれ別の意味の時刻を持っています。設備の記録は、センサーが反応した瞬間の時刻です。作業日報は、その日の生産分をまとめた1行なので、時刻の情報が実質ありません。手入力のExcelは、作業した時刻ではなく入力した時刻になりがちです。

同じ実績でも、記録経路によって時刻の意味が変わる
8:0011:0014:0017:00設備ログ作業日報手入力実際に作った時刻12:04:17(検知した時刻)対象日ぶんをまとめて1行。時刻は残らない16:30(入力した時刻)4時間半のずれどれも間違っていない。「いつ作ったか」で集計できないだけ
時刻を1つに定めないと、どの行を直したのかも追えなくなる

ここで決めるのは、BIで使う時刻を1つに定めることです。工程の開始時刻を使うのか完了時刻を使うのか、日報しかない工程はその日の何時として扱うのか。あわせて、設備の時計がシステムの時計と合っているかを確認します。設備の時計は再起動や設定変更をきっかけにずれることがあり、ネットワーク経由で自動的に時刻を合わせる仕組みが入っていない設備では、ずれたままになりがちです。どこまでの精度が必要かは、出したい集計によって変わります。日別の生産数を見るだけなら、分単位のずれは問題になりません。

時刻を1つに定めると、前工程より早い完了時刻を持つ行が見つかります。これは異常値として消す前に、時計のずれなのか経路の違いなのかを確かめてください。日付の切り方も同時に決めます。夜勤がある工場では、何時から何時までを1日と数えるか(たとえば朝8時を操業日の切り替えとする、など)を決めていないと、夜勤分が翌日に乗るなどして、日別・曜日別・シフト別の比較にずれが出ます。

時刻の問題は、1つの観点にはまとめられません。経路ごとに時刻の定義が違うことは整合性、記録された時刻が実際の作業時刻とずれていることは正確性、実績がBIに反映されるまでに時間がかかることは最新性の問題です。どれに当たるのかを分けて確かめてください。

揃えること② 数量——良品・不良・手直しの数え方

生産数は、どの経路からでも「個数」で入ってきます。だから揃っているように見えます。揃っていないのは、数え方です。

  • 手直しして基準を満たしたものの扱い。初回の良品率では不良、最終の良品率では良品と、見る指標によって変わる
  • 1つの製品に複数の不良箇所があったとき、不良品の数(1個)と不良箇所の件数(複数)のどちらを記録しているか
  • 投入数に、試作・立ち上げ時の生産・段取り替え(次の製品を作るための切り替え作業)の調整品を含めるか
  • 仕掛(しかかり。まだ完成しておらず工程の途中にあるもの)を、どの工程の実績として数えるか

これはデータの誤りではなく、定義の問題です。ラインごとに違う数え方のまま不良率を並べると、分母が違うまま比較することになり、ラインの優劣が入れ替わることがあります。どちらが正しいかではなく、どちらで数えているかを先に確かめる必要があります。

数え方は、1つに統一できるとは限りません。ラインの作り方が違えば、数え方も変わります。統一できない場合は、BIで比較する単位を揃えるほうが現実的です。「同じ数え方のライン同士でだけ比較する」と決めて、ダッシュボードの軸をそう作ります。指標の定義をどこに書いて残すかは、BIを作る前のデータ辞書で扱っています。

揃えること③ 記録の抜け——止まっていたのか、記録されなかったのか

実績が1行も入っていない時間帯が出てきます。このとき、0件として埋めるか、データなしとして扱うかで、集計結果が変わります。

実績が無い時間は、2通りに読める
1時間ごとの実績。このうち6時間は、1行も入っていない設備が止まっていた記録されなかっただけ見分ける手がかり・保全記録に停止の記録がある・前後の工程に仕掛が増えない見分ける手がかり・次工程に仕掛が流れている・設備の稼働ログは動いているどちらか決めずに0で埋めると、稼働率と不良率の両方が狂う※ 仕掛(しかかり)=まだ完成しておらず、工程の途中にあるもの
判別の手がかりは、工程実績のテーブルの外にある

設備が止まっていたのなら、その時間は停止していた時間です。記録されなかっただけなら、その時間は稼働していて、実績が抜けています。前者を0で埋めるのは正しく、後者を0で埋めると、稼働率は実態より低く出ます。ただし不良率は、高く出るとは限りません。生産数だけが抜けていれば分母が小さくなって高く出ますが、不良数も同じ割合で抜けていれば変わらず、不良の記録だけが抜けていれば逆に低く出ます。どちらが抜けているかを確かめないまま埋めると、ずれる方向すら分からなくなります。

見分けるには、工程実績の外を見ます。保全記録に停止の記録があるか、設備の稼働ログが動いているか、次工程に仕掛が流れているか。出荷数や在庫の増減も手がかりになりますが、以前に作った在庫を出荷しただけということもあるため、単独では決め手になりません。どれも工程実績のテーブルの中には書かれていません。この確認を飛ばして機械的に0で埋める処理を入れると、以降ずっと同じずれを含んだ数字を見続けることになります。判別できないときは、無理に0で埋めず「データなし」のまま区別しておきます。

どこまで揃えれば、BIに載せられるか

3つすべてを完全に揃える必要はありません。揃える対象は、BIで何を出したいかによって変わります。出したいものを先に決めて、そこから必要なものだけを揃えます。

BIで出したいもの最低限そろえる必要があるものそろっていないときに起きること
日別・曜日別の生産数何時から何時までを1日と数えるかの定義夜勤分が翌日に乗るなどして、日別・曜日別の比較がずれる
ラインごとの不良率良品・不良・手直しの数え方と、投入数の範囲ラインによって分母や不良の扱いが違い、同じ不良率として比較できない
工程ごとのリードタイム開始・完了の定義、同じロットの開始と完了の紐付け、時計の同期前工程より早い完了時刻が出て、負の時間が混じる
設備の稼働率計画していた生産時間と、停止時間・記録がない時間の区別記録漏れが停止として数えられ、稼働率が実態より低く出る

出したいものによって、そろえる対象が変わる

この表は、上から順に全部やるためのものではありません。最初に出したい1つを選び、その行だけを揃えます。製造業でBIツール導入が失敗する理由でも触れていますが、全部を揃えてから始めようとすると、始まる前に止まります。需要予測などAIの活用まで進める場合に必要な水準は、AI・需要予測の前のデータ整備で扱っています。

まず1ラインで試す

対象は1ラインに絞ります。工場全体やすべての工程を同時に扱うと、経路の棚卸しだけで相当の期間がかかります。設備の数や記録経路の数によって変わりますが、1ラインに絞れば、工場全体を一度に調べるよりも短い期間で現状を把握できます。

順番にも理由があります。経路が分からないまま時刻を直すと、どの行を直したのかを後から追えません。時刻が定まらないまま数量を見ても、それがどの時間帯の数量なのかが決まりません。記録の抜けの判別は、時刻と数量が決まってはじめて「本当に抜けているのか」が分かります。

  • 経路の一覧:工程ごとに、どの経路で実績が入っているかを書き出す
  • 時刻の定義:BIで使う時刻を1つ決め、日付の切り方も決める
  • 数え方の確認:良品・不良・手直し・仕掛の数え方をラインの担当者に確認する
  • 記録の抜けの判別:空白の時間帯について、停止か記録漏れかを分ける手がかりを決める

1ラインで数字が現場の感覚と合うようになってから、次のラインに広げます。合うようになったあとも、放っておくと同じずれが戻ります。経路が増えたり、日報の書き方が変わったりするためです。定期的に数字を見直す仕組みを合わせて用意してください。

よくある質問

Q

設備から自動で取れていれば、工程実績の品質は問題ないのではないでしょうか。

A

自動で取れている部分には、転記のミスが入らないという利点があります。ただし、それで品質が保証されるわけではありません。センサーが正しく検知できているか、必要な項目が取れているか、設備の時計がシステムと合っているかは、別に確かめる必要があります。また設備が記録しているのは、設備が検知したことだけです。手直しの有無、不良の内容、段取り替えで使った分は、設備の記録には入りません。自動で取れている工程と、日報や手入力の工程が混ざっている状態が、本記事で扱っている問題です。

Q

工程実績の粒度が工場ごとに違います。揃えるべきでしょうか。

A

揃えられるなら揃えたほうが扱いやすいですが、現場の作り方が違う場合は、無理に揃えないほうがよいことが多いです。工程別に取れている工場に合わせて、日次しか取れていない工場に工程別の記録を求めると、記録のための作業が増え、やがて記録自体が止まります。代わりに、BIでは両方が出せる一番粗い単位(この例では日次)で比較する軸を作り、工程別の分析は取れている工場だけで行う、という分け方が現実的です。

Q

過去のデータも遡って揃える必要がありますか。

A

最初から遡る必要はありません。まずは直近の期間だけを対象にして、現場の感覚と合うかどうかを確かめてください。遡る範囲は、BIで見たい比較の期間で決まります。前年同月と比べたいなら1年分が必要ですが、直近の改善活動を追うだけであれば数か月で足ります。遡る工数は期間に比例して増えるため、目的から逆算して決めてください。

Q

現場に新しい記録作業をお願いすることになりますか。

A

まずは、いま取れている設備ログ・日報・Excelだけでどこまで出せるかを確かめてください。時刻の定義・数え方の確認・記録の抜けの判別は、すでにあるデータの読み方を決める作業で、記録を増やさずにできます。ただし、不良の発生した時刻や手直しの数量がそもそもどこにも残っていない場合は、記録の方法を足す必要が出てきます。その場合も、現場の負担と、BIで得られるものを見比べてから決めてください。

まとめ

工程実績をBIに集計して数字が合わないとき、原因は入力ミスより先に、設備から自動で取る記録・作業日報・Excelへの手入力という3つの経路が混ざっていることにあります。揃えるのは時刻・数量の数え方・記録の抜けの扱いの3つで、どれもデータを直す前に、読み方を決める作業です。

3つすべてを完全に揃える必要はありません。BIで最初に出したい1つを決め、その集計に必要なものだけを1ラインで揃えてください。現場の感覚と数字が合うようになってから、対象を広げていくほうが確実です。製造現場の実績データをBIで使えるようにする進め方については、BFT Insightまでお気軽にご相談ください。

まず、自社データの品質を数字で確認する

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