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データ活用の実践
データ活用の実践2026年7月30日

システム化されていない社内データの管理——ExcelとGoogleスプレッドシートの選択基準

ERPやCRMなどの専用システムの導入には予算と時間がかかります。一方で、データ管理の課題はシステムが整う前から発生しています。顧客リストや売上記録を誰かのPC上のExcelで管理している。工程管理表が複数の担当者のフォルダに分散している。長年追記してきた社内台帳がどれか最新か分からない状態になっている——これらは「システム化されていない社内データ」の管理で生じる典型的な問題です。

こうした状況での選択肢は大きく2つです。「専用システムを入れるまで現状のまま待つ」か、「手元のツールを選び直して工夫する」かです。後者の立場に立ったとき、ExcelとGoogleスプレッドシートのどちらを使うかは、データ品質と業務効率に影響します。この記事では、システム化前の段階でもツールの選択と運用の見直しでデータ管理を前進させる考え方と、具体的な選択基準を整理します。

特に次のような状況にある方に参考になります。

  • システムからエクスポートしたデータをExcelで加工・集計しており、ミスや属人化が気になっている
  • 長年蓄積してきた社内台帳(顧客リスト・商品台帳・工程管理表など)をExcelで管理しており、バージョン混在や引き継ぎに課題がある
  • 同じファイルを複数人で使っており、上書きや最新ファイルの取り違えが起きている
  • M365またはGoogle Workspaceへの切り替えを検討しており、スプレッドシートの選択も見直したい
社内データの管理とツール選択のイメージ

システム化されていない社内データで起きやすい問題

社内の「システム化されていないデータ」には大きく2つのパターンがあります。①システムからエクスポートしたデータを手元で加工・集計するケースと、②長年にわたり社内で追記・更新してきた台帳類のケースです。それぞれ発生しやすい問題が異なります。

①エクスポート集計のケースでは、毎月・毎週のようにシステムからデータを取り出してExcelで加工・集計します。「集計ルールが担当者の頭の中にしかない」「古いファイルとの取り違えでデータが上書きされる」「加工ステップが複雑になりすぎて後任者が再現できない」という問題が起きやすくなります。データの正確性最新性の管理が主な課題です。

②社内台帳のケースでは、数年〜数十年にわたり追記・更新してきたExcelが社内に複数存在します。「どれが最新か分からない」「担当者が変わるたびに列が増えてフォーマットが崩れる」「重複した行が積み重なっている」という問題が典型的です。データの完全性一意性が課題になりやすい構造です。

どちらのケースも、問題の根本原因は「ツールそのもの」より「ルールなしに複数人が独立してファイルを管理している運用」にあることが多いです。ここを見誤ると、ツールを変えても同じ問題が再現します。

どちらのツールが何に向いているか

業務の場面ごとの向き・不向きを整理します。

業務・場面ExcelGoogle Sheetsポイント
複雑な数式・VBAマクロVBAはExcel専用。Google Apps Scriptで一部代替可能
Power Query・データ変換Google Sheets単体にPower Queryに相当する標準機能はなく、Apps ScriptやBigQuery・外部ETLとの組み合わせで代替するケースが多い
大規模データ処理(数十万行超)Googleは1,000万セル上限あり(2022年3月拡張)。Power Query等を使ったデータ加工・処理ではExcelが有利なケースが多いが、どちらも数百万行超には限界があり、DB・BI基盤の利用を検討した方がよい規模がある
リアルタイム共同編集Googleは共同編集を前提とした設計で扱いやすい。ExcelもM365+OneDrive・SharePoint環境では実用的だが、M365サブスクリプションとクラウド保存が前提条件になる
セルレベルの変更履歴追跡Googleはセル単位の変更履歴を比較的容易に確認できる。ExcelもM365環境でShow ChangesやVersion Historyを利用できるが、確認手順や操作感に差がある
ファイル自動保存・版管理GoogleはAutoSaveが前提設計で設定なしに動作する。ExcelもM365環境のAutoSave・バージョン履歴で同様の管理が可能だが、クラウド保存の設定が前提になる
モバイル・外出先での利用ブラウザで完結するGoogleが有利
BIツール・外部DBとの連携どちらもコネクタ・API対応

◎特に優位 ○対応可 △条件付きまたは機能差あり ✕非対応

業務・場面別のExcel vs Googleスプレッドシート比較

DBエクスポート集計のように「複雑な加工・変換・集計」が中心の業務はExcelが優位です。Power QueryやVBAで構築された集計フローは、Googleスプレッドシートに移植しようとすると業務の再設計になりえます。一方、複数人でリアルタイムに更新する社内台帳的なデータはGoogleスプレッドシートが構造的に有利です。ファイルがクラウド上に1つだけ存在し、変更履歴がセルレベルで自動記録されます。

ツールを変えると改善すること、変えても残ること

Googleスプレッドシートへの移行で改善されやすい問題は「ファイルの分散・上書きリスク」と「変更履歴の追跡」です。Google Drive上の単一ファイルを共同編集する運用にしやすく、最新版を共有しやすい構造になります。変更履歴についても、Googleはセル単位で比較的容易に確認でき、適切な権限管理と組み合わせることでデータの追跡可能性が高まります。

一方、移行しても解決しない問題があります。VBAマクロや複雑なPower Query処理は、ツールを変えても消えません。また、入力ルールや更新ルールを定めずに運用すれば、「どれが最新か分からない」という状況はGoogleスプレッドシートでも再現します。ツール移行と運用ルールの再整備はセットで進める必要があります。

ライセンスコスト比較(2026年7月時点・税別)

「GoogleはMicrosoftより安い」というイメージは、特定の条件下では逆転します。コスト比較は「どのプランが必要か」という業務要件によって結論が変わります。以下の価格はMicrosoft 365・Google Workspace各社の公式サイト掲載価格(2026年7月時点・税別)をもとに作成しています。最新価格は各社公式サイトで「Microsoft 365 Business プラン比較」「Google Workspace 料金」で検索してご確認ください。

シナリオA:ブラウザ版で業務が完結するチーム
人数規模Google Sheets
Google WS Business Starter(¥680/人)
Excel(M365)
M365 Business Basic(¥900/人)
比較
10名(月額)¥6,800¥9,000Google ¥2,200安
50名(月額)¥34,000¥45,000Google ¥11,000安
100名以上(月額)¥68,000¥90,000Google ¥22,000安
判定:Googleが約25%安
シナリオB:デスクトップ版Excelが必須のチーム
※チームでの本格運用を想定しGoogle WS Business Standard(2TBストレージ・会議録画等)を前提とし、デスクトップ版ExcelのためにM365 Apps for Businessを追加購入した場合の合算
人数規模Google Sheets
Google WS Business Standard + M365 Apps合算(¥2,606/人)
Excel(M365)
M365 Business Standard(¥1,874/人)
比較
10名(月額)¥26,060¥18,740M365 ¥7,320安
50名(月額)¥130,300¥93,700M365 ¥36,600安
100名以上(月額)¥260,600¥187,400M365 ¥73,200安
判定:M365が約28%安(二重契約を回避)

※ 2026年7月時点・税別・年間契約(月払い)価格をもとに作成。月払い(月次契約)の場合は単価が高くなります。価格は改定される場合があるため、公開前に各社公式サイトで最新価格をご確認ください。100名以上はCSP・ボリュームライセンスによる割引が適用される場合があります。

シナリオ別・人数規模別のライセンスコスト比較(月額・税別)

シナリオBが示す「Googleを選ぶとMicrosoftより高くなる」ケースは、デスクトップ版Excelを手放せない業務担当者が残る場合に発生します。Google Workspace Business StandardでWeb版スプレッドシートを提供しつつ、複雑なExcel業務のためにMicrosoft 365 Apps for Business(デスクトップ版Officeのみ)を追加契約すると、合算単価はMicrosoft 365 Business Standardを上回ります。50名規模では年間で数十万円規模の差になることがあります(価格は改定される場合があるため、公開前に公式サイトでご確認ください)。

なお、すでにいずれかの環境を運用している場合は、移行コスト(データ移行・社員のツール習熟・業務プロセス見直し)が価格差を上回るケースが多く、現状の環境を維持しながら品質問題の根本原因を解消する方が現実的なことがあります。

どちらを選ぶか——判断の目安

ツール選択の判断は、機能や価格だけでなく、現在の業務プロセス・組織のITリテラシー・既存インフラとの整合性を踏まえて行う必要があります。以下の観点で自社の状況と照らし合わせてください。

決定的要因この条件だけでほぼ判断できる
📊

VBAマクロや複雑なPower Queryを業務に組み込んでいる

Excelが向いている

Google Apps Scriptへの移植は業務プロセスの再設計を意味する。このケースはExcel継続が前提になりやすく、Google移行のROIが出にくい。

💡

ブラウザ版だけで業務が完結し、デスクトップ版Officeは不要

Googleが向いている

コスト面でGoogleが約25%安く、変更履歴・共同編集も標準で優れる。このケースはGoogle選択の根拠が明確。

重要な考慮点単体では決め手にならない。複数の条件と合わせて判断する
🤝

複数メンバーがリアルタイムで同じデータを更新する

Googleが向いている

Googleは共同編集を前提とした設計で操作しやすい。ExcelもOneDriveやSharePoint上で共同編集が可能で、既存のM365環境では十分実用的。

🔍

誰が・いつ・どこを変更したかの履歴追跡が必要

Googleが向いている

Googleはセル単位の変更履歴を比較的容易に確認できる。ExcelもM365環境では変更履歴・バージョン履歴を利用できるが、利用条件や確認手順に違いがある。

⚠️

Excelファイルが乱立し、属人化・バージョン混在が深刻

Googleが向いている

移行でファイル一元化は実現する。ただし管理ルールを整備しなければ、同じ問題がGoogle Drive上で再現する。

既存環境の継続性乗り換えコストの観点。他の条件が拮抗しているときの最終判断材料
🏢

すでにM365でメール・Teamsを運用している

Excelが向いている

乗り換えコストを避けるなら現環境継続が現実的。Teamsとの統合も維持できる。ただし「決定的要因」や「重要な考慮点」でGoogleが有利な場合はこの判断を上書きすることを検討する。

🏢

すでにGoogle Workspaceでメール・Driveを運用している

Googleが向いている

同上。現環境継続が無難。

⚙️

Excelに依存した複雑な業務プロセスがある(マクロなし)

Excelが向いている

マクロなしでも移行コストは生じる。ROIが見えない段階では現環境で品質改善を優先する選択肢も有効。

ExcelとGoogleスプレッドシート、どちらが向いているかの判断目安

複数の条件が当てはまる場合は、現在の運用環境(M365かGoogle Workspaceか)を優先する判断が乗り換えコストを最小化します。どちらのツールを選んでも、データ管理の仕組みとルールが整備されていなければ品質問題は繰り返されます。ツールの選択と並行して、入力ルール・バージョン管理ルール・編集権限の設計を進めることが重要です。

BFTのアプローチ

BFT Insightでは、専用システムの導入前後を問わず、現在の管理状況を起点にした改善を支援しています。ExcelかGoogleかというツール選定の議論の前に、「現在のデータ管理で何が起きており、原因はツールにあるのか・運用ルールにあるのか」を切り分けることが出発点です。システム化に向けた中長期の計画と並行して、手元のツールと運用ルールの整備から始めることで、データ品質の改善はシステム化を待たずに進められます。

まとめ

  • ファイル乱立・上書きリスク・変更履歴の確認は、Googleスプレッドシートへの移行と適切な権限管理を組み合わせることで改善が期待できる。VBAマクロ・Power Queryへの依存は移行しても解決しない
  • コスト面では、Google WS Business StarterとM365 Business Basicの比較では前者が約25%安い。ただし、チームでの本格運用を前提にデスクトップ版Excelも必要な場合はM365 Business Standardの方が約28%安くなる逆転現象が起きる(価格は年間契約・月払い時点の目安。改定があるため公開前に公式サイトで要確認)
  • ツールを変えても運用ルールを整備しなければ同じ品質問題が再現する。移行判断と管理ルールの整備はセットで進める必要がある

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ExcelとBIツールの使い分けはBIの数字を信用できない理由、データ品質の基本はデータ品質とは何かをご参照ください。

よくある質問

Q

ExcelからGoogleスプレッドシートへの移行にはどのくらいのコストがかかりますか?

A

データ移行そのものは比較的容易ですが、VBAマクロや複雑な数式をGoogle Apps Script等で再実装する工数が想定外に大きくなるケースがあります。また、担当者のツール習熟・業務プロセスの見直し・運用ルールの再整備を含めると、VBAや業務プロセスへの依存度によっては数か月規模になるケースもあります。移行前に「Excelに依存した処理の棚卸し」を行うことを推奨します。

Q

ExcelとGoogleスプレッドシートを両方使い続けることは問題ですか?

A

業務上の必要性がある場合は問題ありませんが、「どちらを正とするか」のルールが不明確なまま併用すると、データの二重管理・整合性の乱れが発生しやすくなります。どちらかをマスタ(正本)として定め、もう一方はビュー(参照専用)として使うといった役割の明確化が重要です。

Q

中小企業でもGoogle WorkspaceとM365の比較は必要ですか?

A

10名以下の小規模組織では、既存の状況(どちらかをすでに使っているか・IT担当者がいるか)に応じて判断するのが現実的です。新規に導入するなら、比較的安価なGoogle Business Starterから始める選択肢は合理的です。ただし、既存のExcel資産(VBAマクロ・複雑な関数・Power Queryなど)が多い場合は、デスクトップ版Excelを利用できるMicrosoft 365 Business StandardまたはMicrosoft 365 Apps for Businessの方が業務影響を抑えやすいでしょう。

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